小島の視点
血液データだけ見ていると人を見失う
私が扱っている精密栄養学は 血液データ 遺伝子 腸内細菌 バイオデータなどを組み合わせて 原因をできるだけ立体的に推測していくアプローチです
これまで約200人分のデータを解析してきましたが それでも大きく外したなと反省させられることがあります
外すときの共通点はただ一つ 血液に執着しすぎて人そのものを見ていないときです
私がお伝えしたいのは 教科書に載っている学問としての精密栄養学ではなく 臨床の現場で実際の身体と向き合いながら使える形にアップデートされていった精密栄養学です
頭の中で理屈を組み立てるだけでなく 頭での仮説と身体からの声を一致させること これが何より大事だと私は考えています
今日はその一例として 実際のケースをご紹介します
ケース紹介 LDL191 脳血管障害歴ありの50代やせ型女性
背景プロフィール
- 直近10年以内に脳梗塞 脳出血を経験
- 50代以上のやせ型女性
- 食事は比較的ヘルシー
- 水分もそれなりに摂れている
- サプリメントで栄養管理をしている
血液データ抜粋
- 中性脂肪 TG 60
- HDL 82
- LDL 191
- 血液は脱水傾向
- タンパク低下
- 栄養低下
- 甲状腺機能低下
数字だけ見れば 多くの人がこう考えるはずです
LDLが191もあるから ドロドロ血で動脈硬化が進み脳血管障害を起こしたのだろうと
私自身も学び始めた当初はそのように短絡的に考えていました
本当に LDLが高い = ドロドロ血 なのか
ここで大事な指標があります
中性脂肪 ÷ HDL TG HDL比
このケースでは TG60 ÷ HDL82 = 0.73 とても低く 2を大きく下回っています
一般的には TG HDL比が2以上だと動脈硬化リスクが上がるとされますが この方はむしろ血液サラサラ寄りと考えられます
- LDLは高い
- しかしTG HDL比は低く ドロドロ血ではない
という矛盾した状態が見えてきます
なぜLDLだけが高いのか
腸内細菌と胆汁酸というヒント
LDLが高くなる理由はいくつもあります
- 質の悪い油の摂取
- 体質
- 甲状腺の働きの低下
- 肝の処理能力の低下
しかしこの方は ヘルシーな食事 善玉コレステロールが高い 栄養管理も丁寧という特徴がありました
そこで浮かび上がった仮説はこれです
腸内環境の乱れがLDL上昇を招いているのではないか
腸内細菌は コレステロールを溶かす胆汁酸 特に二次胆汁酸 の産生に深く関与しています
- 腸内環境がよい → 胆汁酸が十分に作られコレステロールが処理される
- 腸内環境が悪い → 胆汁酸が作られずコレステロールが残りやすい → LDLが上がりやすい
このケースもまさにそのパターンでした
しっかり食べているのに栄養低下
違和感の正体はどこか
- 食事は十分
- サプリも丁寧
- それでも栄養不足 タンパク不足
ここで生まれた仮説
身体に入っているのに吸収されていないのではないか
つまり 何を摂っているかではなく どこまで届いているかが問題ということです
評価の結果 小腸の働きが極端に弱く 細胞レベルで動けていない状態が見えてきました
- 栄養が吸収されない
- エネルギー不足 ホルモン低下を招く
- 消化されない栄養が腸内環境を悪化
- 結果としてLDLが上昇
これが血液がサラサラ寄りなのにLDLが高くなる理由の一つでした
なぜ脳血管が破れたのか
偽性血管内脱水とRAASの働き
この方は水分もミネラルも摂っているのに 血液データでは血管内が乾いたような状態が見えていました
理由はこれです
- タンパクが吸収されない
- 血中タンパクが不足する
- 浸透圧が維持できない
- 水が血管外に逃げ 血管内のみ脱水状態になる
身体は血流を維持しようとRAASの働きで血圧を上げ続けます
血圧は190前後まで上昇し 血管壁は栄養不足で脆い その結果として脳出血 脳梗塞が起こっても不思議ではありません
血液だけでは見抜けないこと
身体と対話すると全体像がつながる
血液データだけでここまで推測するのは高度ですが
- 血液データ
- 東洋医学的な触診 観察
- 生活背景 本人の体感
これらを合わせることで パズルが一気に完成する瞬間があります
施術によって小腸の働きに改善の兆しが見え 栄養状態 腸内環境 LDL 血圧の変化を 西洋医学の治療と合わせてフォローしています
対策より先にやるべきこと
このケースから強く感じたことがあります
サプリより先に原因の特定
- 原因を間違えると対策も間違える
- 吸収の問題を見落とすと サプリが逆効果になることもある
- 再発リスクを高めることすらある
だからこそ
- 必要なデータを集める
- 身体と対話し仮説を立てる
- 西洋医学 東洋医学 生活習慣を統合して検証する
- 変化を観察し微調整を続ける
このループこそが 本当の個人統合医療です
この記事で伝えたいこと
- LDLが高いからといって ドロドロ血とは限らない
- TG HDL比など別の視点で読むと違う真相が見えてくる
- しっかり食べているのに栄養不足なら 吸収の問題を疑う
- 腸内環境は脂質データに大きく影響する
- 対策より先に原因の特定 身体との対話が大切
もしあなたや家族の血液データに
- LDLだけ高い
- TG HDL比は悪くない
- なのに疲れやすい 栄養不足感がある
そんなアンバランスがあるなら 腸内環境という視点を一度思い出してみてください
そこにまだ見えていない原因が そっと隠れているかもしれません

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